皆さん、もうご覧になりましたか?――というわけで、日本でもDVDリリースされた、イギリスきってのインディ/オルタナ/アングラ/パンク/フォーク/エレクトロ/前衛ジャズ/メタル(・・・と、キリがないのでここらでやめます。要はなんでもあり、のお好み焼きなんで)フェス、オール・トゥモローズ・パーティーズ(以下ATP)のドキュメンタリー映画「All Tomorrow’s Parties」。気鋭のインディ映画作家ジョナサン・カウエット(「Tarnation」)が采配を振るったノスタルジックでドリーミーなセグメント、ド迫力のライヴ・フッテージの数々、そしてATPファンから寄せられたアマチュア映像をミックスしたこの作品は、筆者がイギリスに居残り続ける最大の理由のひとつと言っても過言ではない(マジに!)、この素晴らしい年3回のお祭りを、モニター・スクリーンを通じ疑似体験させてくれると思う。
で、何がそんなに他の音楽フェスと違うのよ?と問われれば、まずは過去10年:歴代の出演ラインナップをATP公式サイトあるいはWikipediaか何かでチェックしてほしい。それを眺めて「うわーっ!(鼻血ブー)」と興奮する人も、あるいは「はぁ?これ誰っすか」と拍子抜けする人もいるだろうけど、それは当然の話。このフェス、一般的なロック・フェスに較べ極めてコンセプト性が高いのだ。もちろん「今旬な、人気バンドをごっそり観れる」マッスなロック・フェスの存在意義、そして楽しさを否定するつもりは毛頭ないし、だからこそ、そうしたフェスは5万、10万と大観衆を集めることもできる。しかし、60歳近いベテランから18歳のキッズまで、ジャンルも時代も国籍も関係なく選ばれたATPのラインナップには、たとえば「新作が出たので、そのプロモーション・タイミングでフェス出演しますう~」という、ある意味順等で予測しやすい/ルーティーン的なフェス回遊パターンに縛られない、新鮮な魅力と驚きが詰まっている。
そうした「発見」の喜びは、ATPの個性のひとつであるキュレーター・システムに負うところが大きい。周知とは思うが、ベル&セバスチャンが企画したBowlie Weekender(1999年)をモデルに始まったこのフェスは、ほぼ毎回、ラインナップ決定に采配を振るうバンド/アーティストを掲げてきた。モグワイ、トータス、オウテカ、シェラック、ソニック・ユース・・・・・・音楽好きならきっと一度は作ったことがあるであろう、ミックス・テープあるいはコンピCDを作るノリでキュレーターが自らのフェイヴァリット・バンドを組織していく結果、ポピュラリティやトレンドといったありがちな尺度とは一線を画する、マニアックで個性的な顔ぶれが出揃っていく。チョコレートの詰め合わせの箱みたいに、そこには一番早くなくなる人気のトリュフもあれば、胡椒だのチリが入ったチャレンジングな新味も混じっている。しかし、「食べたら意外と美味しかった!」という感動を、箱を囲んだ者達と共有する喜びは(同じ味のトリュフを10個食べるよりも)でかい。
故にこのフェスはいまだ動員3~5千規模のニッチなイベントでもあるのだが、そのニッチをこよなく愛する人々のニーズとひとかたならぬ熱意は、00年代インディ・シーンの特徴である分散化とパーソナル・ネットワーキングと連動していた。その可能性に賭けたATPは、いわば点在していた音楽ファンが一堂に会せる、新たなコミュニティの場を開拓し、そのスピリチュアルなシンボルになったと言える。クサく響くのは承知で書くと、このフェスに参加するたび、家に帰ってきたような安心感と同時に、新学期の1日目に向かうような興奮を感じる。その感覚は、他のどのフェスでも感じない。
名実共に「ミスターATP」と言える主宰者バリー・ホーガンは、ロンドンのコンサート・プロモーション会社(このプロモーターのイベントには、スモッグ他90年代後半さんざんお世話になりました~)のスタッフとしてオーガナイズに関与したBowlie Weekenderにインスパイアされ、翌2000年にATP第1回を開始。以降、5月に2回、更には12月にNightmare Before Christmas、と年3回のサイクルを定着させ、2002年以降アメリカにも進出(昨年第1回オーストラリア版も開催)。フェスばかりでなく各種コンサート企画、またレーベル業も手掛けている。うるさ型のミュージシャンと渡り合い、一瞬ワープ・レコードでA&Rをやってもいたというこの人は、果たしてどんな人物??と今回の初対面取材は緊張&興味津々だったのだが、待ち合わせ場所のコミック・ショップに現われた彼は、若くフレンドリー、行動派のナイスなオタク(=おもちゃやフィギュアが大好きで、日本に行くと必ずまんだらけに寄るそうです:笑)という印象。しかしジョークの連発の中にも辛辣な批判心やライバル意識は満々で、ATPの正当性と必然性、コンセプトの秀逸さに対する自信は揺るぎなく、その迷いのなさを大いに見習いたいもの・・・と感じた。話しているうちにすっかりリラックスしタメ口になってしまったが、よく考えればそういう「主催者側の顔が見える対等なコミュニケーション」というのは、ATPの特徴でもあった。
ATP日本版開催に対する野心も語ってくれたし、オーディエンス重視の様々な新アイデアも聞くことができて楽しかった・・・とはいえ、今回は当サイトにも寄稿してくれているキャプテン(ATP出席歴は筆者と同じく15回)にも特別顧問として同席してもらった結果、ATPに行ったことのある人間じゃないと若干分かりにくい内容になってしまったのは、どうぞご容赦いただきたい(※の注釈が多すぎや)。ATPJPの開催を心から祈りつつ、でも、その日が来るのを待ちきれないよ~という方はぜひ!一度このインディ・キャンプを実地体験してみてください。イギリスは遠いし、食べ物もまあおおむね不味いが(笑)、それを克服して向かうだけの価値は、絶対にある体験だと思うから。
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一番大切にしたいのは、このフェスの主役は音楽、という点
Audiobunny(以下A):先ごろリリースされた映画「All Tomorrow’s Parties」ですが、あなたはこの作品の総合プロデューサーでもあります。実際のディレクションに関しては、どの程度関与したんでしょう?監督にあれこれ指示を与える感じだったのか、あるいは彼らにすっかりお任せだったのか?
バリー・ホーガン(以下B):もともとのアイデアは、なんというか・・・このフェスティヴァルのお話を語ろう、というもので。10年くらい前ATPが始まった当時っていうのは、(イギリスで)経験できる音楽フェスといったらグラストンベリーにレディング、そしてまだ続いていた頃のフェニックス・フェスティヴァル(※98年で終了)くらいで。ああ、あと、Vフェスもあの頃に始まったんだったかな?で、そうしたフェスにしても、たとえばレディングで何組かいいバンドを観れたとしても、その割合はすごく低いわけ(笑)。音響もヒドい上に、自分の観たいバンドの出番まで、それこそ10時間くらい時間潰ししなくちゃならない、みたいな。だから、この映画の当初のアイデアというのは、いわば僕達がそういった大規模でメインストリームなフェスに対するオルタナティヴをやり始めた、その様子をドキュメントしよう、というものだったんだ。
A:なるほど。で、そこから変化していったわけですね。
B:うん。っていうのも、ドキュメンタリー映画にありがちな、コメンテーターが何人も出てきてあれこれテーマについて語る、たとえば「このフェスを始めた主催者、バリー・ホーガンは語る・・・」みたいなスタイルはつまんないなー、と感じて。で、コンセプチュアルなフェス映画、たとえば「Coachella」みたいなものも観たんだけど・・・あれにしても、砂漠のど真ん中で開催される商業フェスの退屈なストーリー、そしてそのパフォーマンス集、みたいな内容なわけだよね。で、プロデューサーのルーク・モリスと監督のジョナサン・カウエット、そして僕とで思いついたのが、実際にそのフェスに参加したような経験をもたらす映画にするってのはどうだろう?というアイデアで。あの映画を観てもらえば分かると思うけど、まず日中にフェス会場に到着するところから始まって、そして夜が更けていく。そして一夜明けて、また日中のシーンに続いていく・・・という感じで、要するに、フェスに参加したお客と同じように、観る者もバンドの演奏を体験していく、という構成なんだ。それに、バンドやファン達のインタラクションも作品に含められたのは良かったよ。たとえば、あの映画の中でもケッサクなシーンのひとつだと僕が思うのが、あの男の子・・・シャレー(※ATPの宿舎の名称)の台所シンクに座って、ヤー・ヤー・ヤーズの「Maps」をアコギでカヴァーしようとする場面で。
A:あれは笑いました。
B:うん、おかしいよね、よくよく聴くと「Maps」とは全然違う曲を歌ってるっていうさ。
(一堂笑う)
B:あの子、マジにイっちゃってたよ。
キャプテン(以下C):完全にトんでたね、あいつ。
A:どっかのシャレーの夜中のパーティー・シーンもすごかった。照明も音もバリバリで、レイヴかよ、みたいな。
B:(笑)。
A:とまあ、そうやってATPのリアルなエッセンスを捉えたかった、ということですね。
B:うん。フェスのスピリット、そしてあの経験をね。
A:そのATPのスピリットをあなたの言葉で要約すると?
B:そうだな、もちろん色々あるんだけど・・・結局、サーストン・ムーアの言葉を引用することになるかな。やっぱり彼の「究極のミックス・テープ」って形容が一番当たってるんじゃないか?と。というのも、このフェスは3日間続くわけで、1日きりの体験じゃあない。たとえば、君がソニック・ユースやシェラック、あるいはエイフェックス・ツイン目当てのファンだとしても、ロスコー・ミッチェルが一体どんなアーティストか、あるいはディアフーフってどんなバンドなのかは知らなかったりする。だからある意味、3日間滞在することで、ATPではそうした未知のバンドを体験せざるを得なくなるっていう。まあ、そうしなくたって、パブでダラダラ飲みながら過ごすのもアリだけどね!で・・・うん、やっぱりミックス・テープを聴くのに似ているな。知らない曲に出くわしたら、早送りするか、あるいは試しに聴いてみるか、どっちかだからね(笑)。うん、ほんとそれが(ATPの)メインなスピリットだと思う・・・あとまあ、ホリデー・キャンプ(※戦後の英国で発達した簡易宿泊施設付きの家族向けリゾート施設。多くがビーチに隣接し、レストラン、遊園地なども敷地内に併設)みたいな古い施設にこだわってるって点もあるよね。ああいう施設は、オーディエンスも子供の頃に体験したことはあるかもしれないけど、大人になった今となっては、足を運ぶことはまあない。僕自身、ホリデーのためにポンティンズやバトリンズ(※共に、英国のホリデー・キャンプ・チェーン)に滞在する・・・なんてことはまずないだろうし。けど、ああいう場所には子供だった頃、親に連れられて行ったもんだったんだよ。
A:子供時代の懐かしい思い出も絡んでいる、と。
B:そうだね、そういう面もあるし・・・まあ、このフェスにはそうやって様々な側面があるわけだけど、僕が一番大切にしたいのは、このフェスの主役は音楽、という点。というのも、実際そういうフェスだからさ。たとえばラインナップとかに関しては、僕達ものすごくがんばってるしね。ま、「ただバンドを寄せ集めてるだけ」なんて考える連中も中にはいるみたいだけど(苦笑)、ブッキングに関して、ほんと努力しているから。すごく重要な点だと僕は思っているし、うん、それはこのフェスの始まった時から現在に至るまで、常に大切な点であり続けているんだ。
僕達は映画監督で、その映画の主役/スターはキュレーター。その中には何がポイントなのかはっきりしない、「良くない」スクリプトを持ち込むスターもいる
A:こうして10年近く経ってフェスの知名度も上がって、その意味で多少バンドのブッキングがやりやすくなった、ということは?それとも、やっぱり今も出演バンドの確保は面倒な大仕事なんでしょうか?
B:んー・・・
A:というのも、ATPのラインナップは非常にジャンルの幅が広くて、それこそ年配のベテラン・ジャズ・ミュージシャンからアメリカのアングラ・フォーク歌姫みたいな人まで含まれるわけです。そうすると、たとえば大手のブッキング・エージェンシーと交渉して、そこの所属アクトを何組かまとめてゲット、なんて風にはいかないだろうし、ひとつひとつのアクトに個別に当たっていくわけで時間もかかる、大変なプロセスなんだろうなあ、と。
B:ああ・・・なんというか、おかしな話なんだけど、ここ最近のATPはその多くがソールド・アウトしているんだ。でも、もちろん毎回売り切れってことはなくて。なんとなく「チケット完売!」みたいな印象はあるかもしれないけど、現実は毎回そうってわけじゃない。で、ブッキング・エージェントというのは、やっぱり自分達の所属バンドをソールド・アウトするような人気のあるフェス、成長し、伸びているフェスに出演させたがるわけ。で、彼らは僕達のことを成功してるフェスだと見込んで、逆にバンドの出演料を釣り上げるようになったっていう。
A:(苦笑)あれれー。
B:おかげで、すごくやりにくくなってしまったんだよね。それと、ホリデー・キャンプ。会場になる施設の側ね、あっちまで会場使用料を値上げしてきてさ。僕達としては、チケット代は極力抑えて、来てくれるお客に「ぼったくり」みたいな不快な思いをさせないようにしたいってのに・・・だから、ある意味回を重ねるごとに難しくなってきてるんじゃないかと思うよ、実際のところは。今使っている新しい会場、バトリンズのマインヘッド会場にしても、最初の回(※サーストン・ムーアが2006年末にキュレートした「Nightmare Before Christmas」)をやった時は、運営上の色んな問題に突き当たったし。
C:でも、あれはいい内容だったけど?
B:うんうん、音楽的にはとてもいい内容だったと僕も思うよ。ただ、問題があったのは・・・
C:ライヴ会場に入る時の長い行列、あれはひどかったな(※ソニック・ユース目当ての客が多く、入場規制に。ソニック・ユースが2回プレイすることで解決)。
B:ああ、だけど、あのシステムというのはひとつの考え方でさ。っていうのも、あの時の出演ラインナップは、そうだね、かなり名の知れたバンドが10組程度、あとは実験的な音楽をやってる連中が40組、みたいな構成だったから、僕としては「あー、こういう内容だったら、お客の方もオープン・マインドで、どんなバンドでも好奇心で観てくれるだろう」と想像していたわけ。要するに、お客の側で自主的に、色んなバンドを観に、勝手に会場に散らばってくれるだろう、と期待したんだ――もちろん、君達もそういうタイプだったと思うけど?(笑)
A&C:(笑)はいはい。
B:ところがそうはいかなくて、僕達も(人気バンドに観客がドッと集中する)問題に対応すべくかなりの時間をかけたし、あの週末の間も奔走して、しかも同じバンドに2回ショウをやってもらうべく、たぶん・・・3万ポンド近いエクストラのギャラを払ったりもして。とにかく、観客に「観たいショウが観れなかった」、という状況を回避してほしかったんだ。だからまあ、そういう(フェスの背景にある)様々な苦労と言うのは、たぶん多くの人々には理解されてない部分なんだろうね。かと言って、僕達がヴィンス・パワー(※英有数の大手コンサート・プロモーター:Mean Fiddler Group/現Festival Republicの創始者。レディング・フェス、フェニックス・フェス他を仕掛けてきた人物)みたいに、ホップ・ファーム(※Hop Farm Festival。09年にヴィンス・パワーが始めた新興フェスで、「No Sponsorship、No Branding」が謳い文句。英ケント開催)で、「このフェスにVIPエリアはありません」「このフェスは企業スポンサーとは無縁です」みたいなバッジを付けて歩き回る、なんてこともしないけど!だって、僕達はそういうあり方で、もう10年続けてきたんだからね。(わざわざ大袈裟にインディ性を喧伝するのではなく)とにかく続けるだけ、っていう。
A:ATPのユニークな点のひとつに「アーティストがフェス出演者を決定する」、すなわちキュレーター制度があるわけです。でも、プロのプロモーターとしては、バンドなりアーティストから提出された希望リストを一瞥して、「あー、このアクトは無理だ、フェスにはマッチしない/手が出ない」と感じることも多いと思うんです。
B:うん。
A:また逆に、興行としてのバランスをとるために、アングラ・バンドばかりではなくある程度のポピュラリティも考慮しなくてはいけないわけですよね?その意味で、キュレーター側とはかなりのコミュニケーション、説得、そして妥協も重ねてきたんじゃないかと思いますが、どうでしょう。
B:ハッハッハッ!うん・・・それは間違いないけど・・・でもね、考え方としては、僕達が映画の監督を務める、みたいなものなんだよ。で、その映画の主役/スターはキュレーター、と。キュレーターが持ってくる希望リストというのはある種台本みたいなものなわけで、中には何がポイントなのかはっきりしない、「良くない」スクリプトを持ち込んでくる連中もいる、と。まあ――ここで実名を明かすのは避けたいんだけど・・・っていうのも、そのバンドは僕達の友人だからね。でもね、その某バンドが、ある時リストにスノウ・パトロールを載せてきたんだよ。
A:(苦笑)シャレだったんじゃないですか?
B:いやいや、マジな話だよ!
C:っていうか、スノウ・パトロールは第1回(※Bowlie Weekender。ベル&セバスチャンがラインナップを決定したミニ・フェスで、ATPの原型。1999年開催)に出演してたでしょ?
B:そうそう!あの頃の彼らは、セバドーみたいな音だったんだよ。それが、そこからガラっと音を変えちゃって。で・・・2002年に、彼らから「ぜひショウをプロモートしてほしい」って頼み込まれたこともあったんだ。「僕達、絶対ビッグになるから!」みたいな。でも、こっちとしては、「スノウ・パトロールがビッグなバンドになるぅ?んなこと、この世で絶対起こり得ない!」ってもんで。
A&C:(爆笑)。
B:スノウ・パトロールのレコードが山ほど売れるなんて絶対あり得ない、クソみたいなもんだし!って思っていたら、どっこい、全世界で200万枚売るヒット・バンドになっちゃったっていう(笑)。でも・・・そうだね、何が言いたかったかっていうと、うん、そういう風に、対処が難しいバンドのリクエストを受けることもたまにあるけど・・・まあ、キュレーター側の希望リストに対して、僕達がナチみたいに独裁を振るってる、みたいに思われたくないけど、そうしたバンドがリクエストに含まれていた場合は、「音楽的に、このバンドはフェスにそぐわないと思う」と伝えていくっていう。だってさ、たとえばガールズ・アラウド(※現UKトップ人気女性アイドル・グループ。00年代版スパイス・ガールズ的存在)みたいなアクトをATPに出演させるなんて、まったく意味ないからさ・・・ま、ガールズ・アラウドを例に上げるのは違うかな?ってのも、彼女達を観たいって連中は、実はすごーくたくさんいると思うし(笑)。
A:アイドルおたくのインディ・ファンね(苦笑)。
B:うん、別の例として、たとえばコーティーナーズを上げておこうか。彼らはすごく人気があるバンドだし、NMEアウォードとかでももてはやされて、またレディングといったフェスティヴァルでもひっぱりだこだよね。けど、彼らみたいなバンドがATPに出演したら、それこそ鉛でできた気球みたく無残に沈没しちゃうだろう、と。ATPに来るオーディエンスはもっとこだわりがある音楽ファン連中だし、彼らが入れ込んでいるのは、そうだなあ、ソニック・ユースとか・・・
C:ドゥーム・メタル?
B:そうそう!(笑)SUN O)))とかOMとか。そういう状況じゃ、コーティーナーズなんて受けっこないよ。だから、僕はキュレーターに対してアドバイスを与えるというのかな、「このアクトは上手くいかないと思う」って具合に。でも、たとえば僕個人としてはATPのノリにはそぐわないなあ~と感じるバンド、DEUSなんかは、これまで何回かリストに上がってきたし、「彼らはATP向きだ」って意見の人間もいる・・・ただ、何度もATPを開催してきた立場の人間としては、コツは掴んでるからね!(笑)でも、とにかくキュレーターには最大限の裁量の自由を与えようとしてはいる。で、マジに手に負えなくなってきたら、こっちも介入していくっていう。
A:以前スティーヴ・アルビニに取材した際、シェラックがキュレーターを務めた回で、呼びたかったけど呼べなかったバンドはいましたか?と聞いたら、「ああ、ニール・ヤングは無理だった」って回答で、それ聞いてこっちとしては「マジにニール・ヤングを呼べると思ったの?!」みたいな。
B:うん、実際トライしたよ。
A:もちろん、実現したら最高だろうけど・・・
C:・・・ニールだけで、フェスの予算がオーバーだ!みたいな?
B:・・・・・・それ、スティーヴ・アルビニ本人に向かって言えると思う!?(苦笑)
C:彼はハードコアな人間だから、扱いも難しそうだよね。
B:(苦笑)んー、っていうかね、彼(アルビニ)は・・・何組かのアーティストを希望してきたわけ。で、「とにかくオファーを出してくれ」って感じで。こっちとしては、「スティーヴ、こういう人達はATPには出てくれないんだよ」って説明して、ギャラを見せても、スティーヴは「あいつらにここまで金を払う価値はない!せいぜいこんな額だろう」みたいな調子で、譲らなくて。
A&C:(苦笑)。
B:でも、こっちはああいうアクトとしょっちゅう交渉しているから、実情は把握しているからね。要するに、どのバンドにもそれぞれ相場だとか出演料のレベルみたいなものがあるわけで、そこで相手を見くびるようなことは、向こうが誰であれ、やりたくないんだ。たとえばあるバンドがATPに来て、こっちが無理を通したせいで「はした金のためにプレイするのかよ」なんて風に感じてほしくはないからね。まともな出演料も払われなかった、待遇も悪い、もうこのフェスには二度と出たくない、なんて思われたくない。だって、もしも誰かを安く値切ったら、その連中がこのフェスにまた戻ってきたい、なんて思うわけないから。で、それもATPの要なんだよな、っていうのも、僕達は誰もに「また戻ってきたい」という思いを抱かせたいし、15回でも何回でも、ATPにまたやって来てほしいから。
C:(笑)。
ATPが3日間開催のフェスになったのはペイヴメントのおかげだった
A:観客の層も実際そうでしょうか?たとえば、私はUS版も含めると03年からATPに行ってるんですけど、これはあなたが願うようにリピーターが多いフェス?それとも、新しい世代・初体験者が毎回増えている感じでしょうか。
B:もちろん、1回目から毎回来ていて、今も観に来てくれる人も一部にいるよ。ただ、新たなファンを獲得していく過程の中では、当然古いファンを失うってこともあるわけでね。たとえば、中には昔の会場(※ポンティンズのキャンバー・サンズ施設。1999年~2006年)の方が現行会場より良かった、と評する人もいるから。でも――ああして会場を(より大キャパのホリデー・キャンプに)変えた理由は、別に僕達がもっと利益を生もうとしたから、ではなくてね。とにかく、最初に使っていた会場側は大きな問題を色々と抱えていたんだよ。たとえば、トイレがちょっとばかり破損したことがあったんだけど、その時、会場側は妨害工作に出ようとしてね。監視カメラを使ってトイレをぶっ壊す様子を撮影して、その上で僕達の側にトイレの修理費を請求してきたっていうさ。こっちはもう、裁判沙汰に持ち込んだよ!
C:それって、2005年のNightmare Before Christmas(※マーズ・ヴォルタがキュレーター)の時でしょ?
B:その通り。
C:あれはケッサクだったよ~、だって、男性トイレに入ったら、バキバキに壊された便器を誰かが使ってて・・・
B:うんうん!(笑)その様子の写真も残ってるよ!
C:なんじゃこれ?一種のアート・インスタレーションか?!みたいな。
A&B:(爆笑)。
B:だから・・・まあ、(最初の会場である)キャンバーは、ある意味誰からも見放された遊び場というか、その意味ですごくチャーミングだし、個性豊かな場所なんだよね。だから、たぶん君達も愛着を感じてるだろうし、ある意味、あの会場の方がマインヘッドよりベター、というのは自分でも分かってる。ただ、問題があって・・・施設そのもののコンディションがねぇ。たとえばステージとか、あのまま使用するのは安全基準から考えてもやばいだろう、ってレベルにまで来てて。
A:ああ、そうだったんだ。
B:うん。ほんと、会場のあちこちガタが来ていて・・・カーティス・メイフィールドみたいな事件(※1990年、コンサート中に照明が落下しカーティスが負傷、半身不随になった)は避けたいからさ(苦笑)。
A&C:確かに。
B:それに宿舎施設の面でも、参加客にまともな宿舎を提供するのが難しい状況になってきたなー、と感じていて。今の会場に関して言えるのは、確実に宿泊施設の質はいいし、宿舎以外の施設にしても、たとえばちゃんとしたミニ・シアターがあるから映画も上映できる・・・というのも、映画も僕達にとってはすごく重要だから。「フェスで映画も上映できたらどんなにいいだろう?」って考えてきたし、実際、キャンバーでやろうとしたこともそれだったんだ(笑)、急ごしらえのスクリーンを立てて、映画を上映して(※ヴィンセント・ギャロがキュレートした2005年回で、「Brown Bunny」上映会も行われた)・・・まあ、ロクでもない上映会だったけどね!だからまあ、僕達はとにかく、観に来てくれるお客にとってパーフェクトなフェスにしようとしているんだよ。たとえば、冠スポンサーになりたいってことで、大企業からクレイジーな額の協賛金をオファーされることもあるけど、僕達はその金を受け取ろうとは思わない。自分達がこれまでやってきたことに忠実に、正直なままでいたいからね。まあ、スポンサー資金を蹴るなんて正気の沙汰じゃない、っ言う人間もいるけど、よく考えてもごらんよ?たとえば、「All Tomorrow’s ”FANTA” Parties」なんて名称に変えざるを得なくなるかもしれないんだよ?!
A:(笑)。
C:ああ。それが、以前やったファン向けの調査の理由だったの?(※ATP参加客を対象にしたウェブQ&Aアンケート。質問の中に「スポンサーの参与をどう思いますか?」の項目があった)
B:んー・・・あれは・・・(やや言葉を濁す)スタッフとの間で、会社の中で「どうだろう?」と話し合っていたことだったんだけど・・・うん、そうだね。参加客に意見を聞いて、そのリアクションを探りたかったってのはあるよ。でも、(回答の結果如何に関らず)スポンサーが付くってことはないけども。
C:でも、あのアンケート回答の結果は概してどんなものだった?
B:大半が「企業スポンサーは持ち込まないでほしい」「可能な限り企業スポンサーは避けてほしい」ってものだったよ。ただ、他にも難しい問題はあって・・・というのも、ATPが始まった当時は、他に(イギリスに)同種のフェスは存在しなかったわけ。それが今やもう・・・それこそCDを2枚くらい持ってて、イベントに使えるフィールドを確保できる人間なら、猫も杓子もフェスをプロモートしよう!みたいな感じでしょ(苦笑)。そういうフェスの多くは、これといったコンセプトも打ち出していないし、要は利潤追求が目的、しかも出演バンドの多くも被ってるっていう。以前の僕達は、時期外れにブッキングしていたし、他のフェスが行われない時期の開催(※5月&12月)ということもあって、競争相手はいなかったわけ。それが、ああして各種フェスが生まれたことによって・・・たとえばEnd of The Road Festival(※2006年にスタートした新興の英野外フェスで、9月開催。アメリカーナ、ニュー・フォーク系が多く出演)なんて、11月の時点でもう翌年の開催を発表してるんだよ?!普通、あの時期のフェスなんて、チケットの売り出しはその年の3月か4月だろ!っていうさ。
C:まあ、今はみんな早割りチケット目当ての客を当て込んでいるから。
B:だよね。だから・・・僕達にもそうした一種のフェス・ブームに乗ろう、という思いはあるけども、一方で、他のフェスとは違うものをオーディエンスに提供したいな、と常に思っていて。だからなんだよね、ペイヴメント再結成を長いこと追っかけていたのは。
A:あれは、ほんと偉い!マジに大金星っす!
B:(照れくさそうに)ヘヘヘ!
A:まあ、それはマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(※MBV再結成ツアーを企画したのはATPコンサーツ)にしてもそうだったけど・・・ペイヴメント再結成の噂は前からあって、友人達との間で、「再結成があるなら絶対ATPをやるだろう」って憶測していたんです。だから、発表された時はみんなで「イェーイ!」と大騒ぎで。
B:うんうん、でも、ペイヴメントの出演はある意味理に叶ってるんだよ。っていうのも・・・なんでATPが3日間開催のフェスになったか?というと、それはペイヴメントのおかげだったから。
A:そうなんですか?
B:最初のATP、すなわちBowlie Weekenderを僕達が企画した時、色んなバンドに声をかけていく中で、「ペイヴメントには絶対出てもらわなきゃ!マストだ!」って話になって。エージェントに「ペイヴメントに出てもらえない?」って持ちかけたら、「もちろん!絶対ハマるよ、それ」ってことで、彼らに金曜の晩の出演枠を充てることにしたんだ。で、同じ日の出演バンドとして、他にデルガドスやティーンエイジ・ファンクラブなんかも決めていって、ツアーの準備も整えて、会場のスケジュールも確保して・・・ってとこまで来て、ペイヴメントの側からいきなり出演できない、無理だって言われて。こっちはもう「マジかよ~~?!」みたいなもんだったけど、その時点では日程を変更するには手遅れで。だから、そもそものアイデアは土・日の2日開催だったんだけど、ペイヴメントに出てほしいがために、3日間でスケジュールを組むことになったっていう。で、「クソッ!だったらもう、意地でも3日間のフェスにしてやる!」ってことで(苦笑)、ATPが3日間のフェスになったのは、ペイヴメントのおかげなんだ。その意味で、(今回の再結成ショウ@ATPは)納得っていう。
C:ATPに貸しがあったんだね。
B:そう(笑)!こうして10年経って、やっと彼らにATPに出演してもらうことができることになった、10周年の一部になってもらえたっていう。
会期中は忙しいけど、スリープとジーザス・リザードは何が何でも観た
A:でも・・・アメリカ版、2005年のNY回は、結局幻に終わりましたが、スティーヴ・マルクマスがキュレートの予定じゃありませんでした?
B:ああ、あれは・・・・・・ってか、君、ATPに詳しすぎだよ~!(苦笑)
A:すんません、行こうとしていたもんで・・・。
B:いや、いいんだよ、嬉しい(笑)。うん、あの時は、会場もセットアップして、準備は整ったってとこまで来てたんだけど・・・
A:会場はマンハッタンの中?
B:いや、ニュー・ジャージーのアズベリー・パークに会場を設定したんだ。ひとつの建物の中に会場が3つある複合施設で、通りの向かいにはホテルもある、会場から歩いて1、2分のところに寝泊りできる、と。それで僕達も「最高!」って思ったんだけど、その会場がなんとライヴ・ネイション(※米大手コンサート・プロモーター/マルチ・メディア企業)に買い取られてしまって、僕達なんかにゃ貸してくれないってことになって。
A:ひどーい。
C:大企業の横槍だね、文字通り。
B:こっちとしても、だったら他に良い会場が見つかるまで待とう、ということになって。で、最終的にカッチャーズ(※2008年から再開したアメリカ版ATPの会場。ニューヨーク上州に位置する)を見つけたっていう。
A:あの会場、最高ですね!もちろん遠くて行くのは大変だけど、よくあんなずっぱまりの場所を見つけたなあ、と。
B:君達、NYの次回ATPにも行くつもり?
C:行きたいのは山々だけど、英米往復飛行機運賃もバカにならないし、先立つものがねー。
B:なるほど(苦笑)。
C:っていうか、ペイヴメント回はもちろん行くけど、その前のマット・グローニングの回も行きたいと思ってるから、貯金しないと。
B:ハハハッ(と半ば呆れたように笑う)!でも、MBVのNightmare Before Christmasと10周年記念回の間に、新企画「Inbetween Days」を始めたのもそれなんだ。ひとつのフェスから次のフェスまでの間、観に来るお客やバンドには1週間やることがないわけで、だったらウィークデイにも同会場でギグをやろうじゃないか、と。できれば、次の5月にも同じ企画をやれればいいな、と思っているんだ。ただ、ひとつ問題があって・・・
C:他の、ホリデー目当てでリゾートに来始めた客との兼ね合い?
B:そう。でもまあ、施設の一部をATP向けに囲ってしまえば大丈夫か・・・たとえば、クレイジー・ホース会場(※バトリンズ:マインヘッド内にあるサルーン・バー)を独占で使わせてもらうとか、そうすればなんとかなるかもしれない。
C:でも、クレイジー・ホースじゃ狭くない?
B:うんうん、でもそれがポイントで・・・Inbetween Daysはクレイジー・ホースでしかやらない、と。ってのも、僕達は今、ある意味キャンバー・サンズ時代とは違うことをやっているわけだけど、だからこそキャンバーにあったパブ、Queen Vicとあのセカンド・ステージの雰囲気がひとつになった、メイン会場では体験できないような何かをやりたいな、と。まあ・・・ぶっちゃけ最初のInbetween Daysに来てくれるお客は、せいぜい200人程度でね。だから、やることで逆に赤字になるだろうけど、これを足掛かりにこのイベントを成長させて、続けていけば・・・たとえばの話、昔の会場を恋しがってるハードコアなATPファンにとっては、いずれ「Inbetween Daysこそベスト!」みたいなことになるかもしれないじゃない?!
A:(笑)そうやって、常に新しいアイデアを試してますよね?
B:(苦笑)。
A:フェスのプログラムも凝る一方だし、映画プログラム、ATPTV(※宿舎のテレビで上映される映画他プログラム)・・・と、そうしたアイデアは毎回楽しませてもらってますが、たとえばNY2009年回で素晴らしかった、オネイダのオクロポリス(※オネイダのスタジオをATP会場内に持ってくる、という企画。バンドは1ルームを占有し、飛び入りする他アーティストらと1日中ジャム)、あれと同じアイデアをイギリス版でもやる、ってことは?
B:あー、あれね!うん、実際バンドの方からも、UK版で同じことをやりたいって話をもらったよ。だから、ペイヴメント、あるいはマット・グローニングの回のどっちかで、小ステージを1日貸切にできるかどうか、あるいはクレイジー・ホースを丸ごと使えるかどうか、検討しているんだ。そうすれば、1日中好きな時にライヴを観に出たり入ったりできるからね。そうだな、クレイジー・ホースはもってこいかも・・・(とひとりごと)。とにかく、うん、あれはナイスな企画だったよね、1日のどの時間でも、好きな時にパフォーマンスをチェックできるんだから。
A:バンド側もすごく熱意をもってやってました。メンバーなんて、出演予定の前々日から場内を歩き回ってチェックしてたくらいで。
B:僕はちょっとしか観れなかったけどね。開催中は、色々やることが多いから。
A:ていうか、実際、フェス中に演奏を観ることはできるんですか?あなた自身ものすごい音楽ファンだと思うし、「仕事はほったらかしてライヴを観たい」って思いは強いと思います。でも、運営面での色んな仕事に取り組まなくちゃいけないのかなあ?と。
B:えー、そうだね、週末が進むにつれて、そのケースは増えてくるね。っていうのも、毎回、僕はドラマー連中とつるんで長い時間を過ごすことになるから・・・。
C:(苦笑)ドラマーなんだ。
B:そう!どうしてか分からないけど、大抵バンドのドラマー達なんだよな(苦笑)。それとか、プリマドンナ型の、手のかかる人達。でも、たとえば、この間スリープとジーザス・リザードがプレイした時はもう、「無線も、携帯のスイッチも切った。誰も話しかけるな、俺はスリープを観るんだ!」みたいな。2晩とも観たけど、もー最高だったね!
A:まったく同感です。ぶっ飛びました。
C:僕はあの時は・・・文字通り、宿舎でグーグー眠りほうけてた(※スリープの出演は午前1時過ぎ)んだよなぁ(苦笑)
B:マジィ?!だったらもう・・・(笑)やっぱり君、次のNY回に来ないと!(※スリープの「Holy Mountain」+再演出演が決定している)
C:はははっ!
(以下、パート2に続く)